例会・イベント

開催の報告

大阪支部新春講演会の報告

大阪支部新年例会に先立ち、新春講演会が80余名のご出席のもと開催されました。今回は関西学院大学教授・元駐ドイツ大使の神余隆博先生をお迎えし、「激動の世界情勢と日本の進路」~日本はどう動くか~と題して講演をしていただきましたので、その概略をご報告します。

・日本の外交戦略
私が考える外交の定義とは国益+国際協調+尊厳の確保ということです。自国の国益を優先することは勿論ですが、その為には国際協調が必要であり、何よりも日本国家としての尊厳の確保が重要なことです。日本の外交は平和憲法と平和外交に徹しており、ハードパワーとしては、日米同盟・自衛隊・経済力・科学技術等を有していますが、それにも増してソフトパワーである日本の伝統的文化・自由と民主主義・人権尊重・言論の自由・国民の勤勉性・高度な教育等の強みを有しています。

あの東日本大震災の中で、各国からは原発問題でバッシングを受けながらも国民は冷静に整然と行動し、天皇陛下自らテレビを通じて国民を勇気づけられたほか、災害地を見舞う等こんな国は世界に類を見ないという尊敬の目で見られています。日本の外交は、以上のような国民・国家の尊厳の上に成り立っていると思います。

・東アジアの危機
現在日本は、中国、韓国、北朝鮮との間で色々の問題を抱えています。これは中国・韓国・北朝鮮の儒教文明と日本独自の文明との衝突に起因しているものと思います。中国は一帯一路政策を進め習近平は建国100年には世界覇権を目指しており、北朝鮮は暴走し迷走しています。トランプ政権は北朝鮮に対して宥和政策をとってますが、独裁国家には宥和政策は有効ではありません。断固とした姿勢が必要と思います。韓国はひたすら民族ロマン主義外交を進めており日本との対立を深めています。

日本はこれらの国とは米国と違う路線が必要と思われますがその対応に苦労しています。歴史問題については謙虚に向き合うべきです。しかし時には毅然と対応することが必要です。「小異を捨てて大同につく」ではなく「小異を残して大同につく」という精神で気長く解決しなければならないと思います。

・日本の対応
日本は「自由な世界秩序の牽引(開かれたインド・太平洋構想)」を描いて進もうとしています。一方、中国は一帯一路政策をかざしてユーラシア大陸やインド、東南アジア諸国に影響を及ぼそうとしています。こうした中、米国は中国の進出を阻止しようと日米同盟の結束の強化を呼びかけています。日本は、米中対立が「ツキディデスの罠」(アテネとスパルタ戦争の戦記の著者ツキディデスが戦争原因として指摘した覇権国の陥る不安)を回避し、軍事衝突にならない様、両国間の緩衝剤として外交の展開をはかるべきと思います。

憲法改正の件ですが、ドイツは戦後60回憲法(基本法)を改正しています。憲法の根幹を改正するのではなく加憲のかたちでの改正です。引き算ではなく足し算なのです。この方式は日本の憲法改正にも適しております。将来、是非この方式で憲法改正に取り組んでほしいと思います。

・隣国との和解は可能か
中国・韓国の経済は、もはや日本を遥かに凌ぐ勢いで成長を遂げています。日本に対する対抗心というよりむしろ優越感を持ち始めています。これは日本人の感情を刺激し、悪感情の拡大再生産となっています。韓国ではナショナリズムが昂揚し、徴用工・慰安婦・レーダー照射・GSOMIA等々の問題を引き起こしています。また、中国・韓国は日本の安保常任理事国への動きに徹底的に反対しています。こうした国との和解は可能かと言えば難しいと言わざるを得ません。加害者が謝罪し、被害者が「赦す」という双方向の動きが伴わない限り和解は成立しません。

日本は謙虚でなければならないが、卑屈になる必要は全くありません。相手国政府は、日本のことを決して良くは言いません。我国の国民に対してはもとより相手国国民にもパブリック・ディプロマシー等様々なかたちで日本の良さを訴えていくべきと思います。ドイツにはベルリンにドイツ史博物館もありますが、ボンには現代史博物館もあります。日本にも現代史博物館を作るべきと思います。近現代史の教育にもっと力を入れることが必要です。

・日本人の自信をいかに回復するか
日本は最も世界に貢献している国の一つです。戦争放棄(9条)、非核三原則、武器輸出三原則、途上国支援(ODA)、PKO等国連への貢献で世界平和に貢献しております。黄熱病研究で殉死した野口英世博士、ユダヤ人を救った杉原千畝、ペシャワール会の中村哲氏等、使命感と人類愛に満ちた日本人が多くいます。公徳心に富んだ人が多いのです。近隣の儒教国にはそのような話はあまり聞きません。

令和の時代は堂々とした日本を取り戻す時代です。同盟は永遠ではありません。自分の国は自分で守るという主旨から、防衛力の適切な増強、教育と科学技術の抜本的な強化を早急にはかっていくべきと思います。日本の弱点は心理戦と、プロパガンダ戦です。これを克服し、日本の尊厳を守るのが政治と外交の役割です。

ご清聴ありがとうございました。

講師のプロフィール

1950年香川県生まれ。72年大阪大学法学部卒業、外務省入省。ドイツ・ゲッティンゲン大学留学、スイス、中国、ドイツの各日本大使館勤務。外務省欧州局審議官、在デュッセルドルフ総領事、国際社会協力部長を経て2006年から国連大使(次席常駐代表)、08年から駐ドイツ大使。外務省退官後、2012年4月から関西学院大学教授。副学長を6年間務め現在は関西学院理事および国連・外交統括センター長。日本国際連合学会理事長。1993年から96年まで大阪大教授も務めた。法学博士。
著書に『多極化世界の日本外交戦略』『新国連論』『国際危機と日本外交』など。

下のURLから講演会場風景がご覧になれます。

http://30d.jp/sunrock2000/20 合い言葉:shayukai