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寄稿・便り

新しいお金・デジタル通貨の話

――近い将来、私たちのお金が大きく変わる

中條誠一(75002)

皆さんは、先ごろの北京オリンピックの会場で、外国人関係者にデジタル人民元のデモンストレーションがなされていたのをご覧になりましたでしょうか。お隣の中国では、その使用が実験段階に入っていますし、バハマではサンドダラー、カンボジアではバコンというデジタル通貨がすでに発行されています。

そうした中で、日本も最近は前向きな姿勢に転じつつあり、日銀によるデジタル円の発行も空想の話ではなくなって来ました。ところが、現金と違って手に取って見ることの出来ないデジタル円は具体的に実感し難いものがあります。そこで、簡単にその正体を探って見ることにしましょう。

スイカやペイペイなどはお金ではない
新しいお金、デジタル円を具体的にイメージいただくためには、今お買物の支払いに使っている2つのものと比較するのがよいと思います。まず、一つはクレジットカード、電子マネー、スマホの決済アプリなどです。スイカなどは電子「マネー」とさえ呼ばれていますから誤解するのも無理はありませんが、皆さんはこれらをお金と勘違いしていませんか。

今のところ、この世の中に発行されているお金は、現金と預金という2つしかありません。でも、これらは今日のようなスピード社会では、実に使い勝手が悪いのです。特に、預金となると銀行に行って口座振替をしなければなりません。その不便さを軽減し、お店でスムーズにお買物ができるように、こうした「支払指図手段」と呼ばれるものが活用されているのです。

確かに、これらのデジタル化が進み、ペイペイなどのようにそれを使えば、アッという間にお店で支払いができるようになりました。しかし、よく考えてみてください。私たちがペイペイでピィピィとして、お買物をしたとしても、それで最終的な支払いはされていません。私たちが事前にチャージすると、ペイペイの発行会社の預金口座にそれがプールされ、そこからお店の口座に預金が振り替えられて初めて、お店は代金がいただけるからです。ペイペイなどは、その背後に預金というお金があって、顧客→ペイペイ発行会社→お店へと口座振替を速やかにする役割を果たしているのです。ですから、最終的な支払いをしている現金と預金がお金で、これらはその使い勝手を良くする「お金のようなもの」とでもいったらよいでしょう。

同じデジタル化でも、ペイペイなどと次元が違う
そのペイペイとデジタル円がまだありませんので、デジタル人民元の写真ですが、2つを見比べてみてください。見かけ上は同じですが、その機能はまったく違います。同じデジタル化でも、ペイペイは現金や預金というお金の支払い方法を、デジタル円はお金その ものをデジタル化しています。ですから、ペイペイでの支払いをするといっても、お店では「ポイントを使って買い物をしたから、その分を口座振替してください」という指図を発行会社にしているだけで、最終的な決済は裏にある預金の口座振替でしているのです。しかし、デジタル円はそれ自体でお店に支払いを完了することができます。デジタル円はお金そのものだからです。

もっと具体的な違いをいいますと、ペイペイは特定の加盟店でしか使えません。しかし、デジタル円はいつでもどこでも使えて、転々と流通するというお金の特性を備えています。また、ペイペイの発行会社は「便利な支払いのサービス」を提供することで、ユーザー(主に、お店)から使用料を取りますが、お金であるデジタル円はそのようなことはありません。お金であるデジタル円とペイペイなどの「お金のようなもの」とは、まったく違う次元のものなのです。

いよいよ、新しい第3のお金が誕生
次に、現金、預金というこれまでのお金と、新しい第3のお金・デジタル円を比べてみましょう。手に取ることが出来る現金との違いは多くを語るまでもありませんので、ともにバーチャルなお金である預金との違いを見てみましょう。

今、日本で発行されているお金で、現金は1割程度に過ぎません。大部分は預金なのですが、その正体は「銀行のサーバーの中にある出入金と残高のデータ」なのです。ただ普通のデータと違って、それをやり取りすれば好きな物が買える、すなわちそれ自体が価値を持っているというのが特徴を持っています。

残念ながら、最近まではこの価値を持ったデータは、途中で改ざんされる危険があるため、ネット上でやり取りできませんでした。ですからやむを得ず、多くの人が自分のデータを銀行に預金として預けて、口座振替という方法でやり取りをしてきました。銀行間で受払いの情報(普通のデータ)を流し、受払人の預金口座をプラス・マイナスする方法です。ですから、どうしてもそれをしてくれる銀行が必要だったのですが、皆さんもご存知のように、このやり方だと手間も時間もコストもかかってしまいます。

ところが、ブロックチェーンという画期的な技術が開発され、改ざんされることなく、ネット上でお金そのものを送ること(価値の伝達)が出来るようになりました。となると、銀行のサーバーに自分の出入金や残高データを預けておく必要はなく、出入金や残高データは自分のパソコンやスマホで管理し、そこから相手とネット上で直接やり取りできるようになります。要するに、「ネット上で直接やり取りでき、私たちのパソコンやスマホに搭載された出入金と残高データ」、これがデジタル円というものの正体なのです。預金と違い、口座振替の手間や時間やコストを省くことができ、基本的には銀行の中抜きができる「夢の通貨」といえるかもしれません。

それぞれの生活スタイルでお金を選ぶ時代に
そんなデジタル円が登場したら、私たちの生活はどうなるのでしょうか。先ほど、銀行の中抜きが可能といいましたが、実際は日銀が発行してそのやり取りを全て管理するのは難しいため、図にありますように、銀行を通じて発行(間接発行)することになりそうです。そのデジタル円を私たちが使う場合は、まず自分のパソコンやスマホにデジタル円を入れておくお財布(デジタルウォレット)を用意します。そこに、現金や預金と引き換えに銀行からデジタル円を入れてもらいます。そのデジタル円を銀行は、日銀に預けてある準備預金口座からデジタル円発行のために設けられた特別勘定に預託することによって入手し、私たちに供給する役割を果たすことになりそうです。こうして得たデジタル円で、私たちはお店で買物の支払いをしたり、遠方の人にネットで送金できるというわけです。

もちろん日常の支払いにおいて、私たちの選択肢が広がりますが、便利なデジタル円によって、ますますキャッシュレス化が進むことは間違いないでしょう。でも、アナログ人間はいつの世でもいますし、お金のやり取りを匿名でしたい場合もありますから、現金がまったく消えてなくなることはないと思います。

預金はなおさらです。稼いだお金を全て、デジタル円にしてスマホで持ち歩く人はいないでしょう。やはり、当面使わないお金は預金として、銀行に預けておくことになると思います。それの方が安心ですし、そういう人がいないと、世の中で余っているお金を今必要としている人に回してあげるという金融仲介が滞ってしまいます。預金というお金には、口座振替で支払いをするということの他に、貯蓄と投資を結びつけるというもう一つの大事な役割があるということです。となると、銀行はその金融仲介をするだけでなく、デジタル円の発行にも携わりそうですから、一定の役割を担い続けると思われます。

その預金で素早く支払いをするために、ペイペイなどの「お金のようなもの」を活用し続ける人もいるかもしれません。ただ、デジタル円の方がより便利ですから、それに対抗できるように発行会社は使える店を増やしたり、クーポンサービスなどを充実させなければなりません。いずれにせよ、私たちは今以上に自分の好みや生活スタイルに応じて、デジタル円が加わったお金や「お金のようなもの」を使い分ける時代になりそうです。