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開催の報告

「AI(人工知能)との付き合い方」
AI研究者 加藤英樹氏

最近テレビや新聞で何かと話題となっている人工知能(AI)。自動運転の車や家庭の電化製品に話しかけるだけで操作できるアマゾンエコーなど、AIを活用した製品が続々と出現している。便利な反面、将来的には多くの事務作業や労働がAIに代わり雇用が脅かされるのではとの懸念も出ている。コンピューターの発展、進化により昔は夢物語であった人間のようなロボットが登場するのもそう遠くはないと感じられるが、実際のところはどうなのか。2018年10月23日に開催した秋の第15回東京本部講演会は長年AIを研究してきた加藤英樹氏をお招きし、そもそもAIとは何?という話から、囲碁AIの世界、今後の展望などにつき講演頂きました。以下講演の一部を掲載します。

1.AI (Artificial Intelligence-人工知能) とは

AIとは機械に人間の知的な作業を代行させる技術だが、人間の脳は複雑で未知の部分が多い。AIは人類の脅威だとか人間のようなAIが近々出現するなどの報道や著作が多いが誤り。これらはほとんど煽ることで利益を得る人たちの言動。 

AIは専用AI、汎用AIに分けられているが、「人間みたいなAI」はさらにその先。囲碁、自動運転、画像認識など現在実用化されているAIはすべて専用AI。色々な分野で使える汎用AIはまだ研究段階。まして「人間みたいな」はSFの世界だ。

AIという言葉が生まれたのは1956年。1980年代にはAI搭載ロボットと称するものが万博や展示会に出品されたが実用にはほど遠いものだった。2000年代、ハードウェアの進歩により膨大なデータを高速で処理できるようになると同時にディープラーニング(深層学習)という手法が開発されて、例えば囲碁の「良さそうな手」のような人間がプログラムで書くのが難しいものを、実際のプロ棋士の着手(棋譜)から学習できるようになった。深層学習は「深い」層と書くが、処理装置(ニューラルネット)の層数が「多い」だけでそれ以上の意味はない。

ニューラルネットは人間の脳の神経系をモデル化したもので、入力と出力の間に複数の層がある。人間の視覚は6層だが囲碁AIで数十層、顔の認識では数百層のものが使われており、これが大量の学習データからその入力と出力の関係を「学習」するのである。

2.囲碁AIの世界

1997年IBMのディープブルーがチェスの世界チャンピオンに勝利し大きな話題になった。知性の象徴ともいえるチェスにおいて機械が勝利したことで欧米では人間より優秀な機械の発明に恐怖が生まれた。この後、研究者たちは囲碁に挑戦したがうまくいかなかった。理由は、チェスと違い石(駒)の価値に差がない、盤面が広い、囲碁特有の「厚み」の評価が難しいなどによる。

2009年、囲碁をAIの例として研究していた私は、天才プログラマー尾島陽児氏と出会いチームDeepZenを結成した。2011年にコンピューター囲碁の世界大会で優勝し、翌年武宮正樹九段との四子局でZenが勝ってNHKのニュースでも報道された。これにより囲碁AIが注目を浴びるようになった。Zenはその後も数々の大会で優勝し、2017年世界囲碁連盟が主催した囲碁AIの世界大会で優勝したのを最後に18年春引退、開発を終えた。

一方、米グーグル傘下の英ディープマインド社のAlphaGoは、コンピューター囲碁の大会には参加していないが2016年韓国の元世界チャンピオン李世乭(イセドル)九段、17年世界最強の中国の柯潔(カケツ)九段にハンディなしで勝利して世界最強と言われるようになったが、柯潔九段との対局後引退した。

AlphaGoではふたつのニューラルネットを使用している。ひとつはポリシーネットワークで、ある局面から次の一手をどう打つかを選択する。もうひとつはバリューネットワークで、局面と最終結果(勝敗)だけを徹底的に学習させたもの。囲碁AIは大量の訓練データと訓練時間が必要だが、なかでもAlphaGoのデータ量は膨大でグーグルでなければ出来なかった。学習に使えるコンピューターの台数と開発時間は反比例するため、囲碁AIも資金力がものをいう世界になってしまった。

3.今後の展望(短期)

専用AIはさまざまな分野で実用化され自動化できることが広がった。短期的には専用AIをどう活かすということになる。強力な技術は便利であると同時にリスクも大きく、悪用されないような対策や、自動運転で発生した事故にどう対応するかを考えないといけない。
また社会としては制度や法律の倫理的な整合性をとっていかねばならず、大衆化するまでには人間が慣れるための時間も必要である。

4.質疑応答

(1) ヒット曲を作るAIや採用面接をするAIもあるというが?
前者は過去ヒットした旋律や歌詞、後者はこれまでに採用された人の要件を学習データとして与えればできる。過去のヒット曲に似たような曲や、面接官が好んできた人材を選ぶことはできるが、本当にヒットするか、また採用した人間が望まれる人材かは分からない。

(2) AIが感覚や感情を持てるか?
感覚は(人為的に)組み込めないことはないが、感情は本質的に難しい。

(3) 日本のAI技術は世界的にどのあたり?
かなり遅れている。国の先見性の無さも一因。米国がダントツ、中国も情報鎖国のおかげでIT産業が育ちアリババ、バイドゥ、テンセントの3社がトヨタの1.5倍の規模になった。日本でもトヨタやソフトバンクが頑張っているが、基盤になるインフラが整っておらず研究費も少ない。優秀な研究者はグーグルに行ってしまう。

(4) 若手の囲碁棋士がAIを研究しており再び人間が勝つ日がくるのでは?
今でも局地戦は人間のほうが強い。大局観はAIが勝る。人間の大局観は若いときに形成されるので最初からAIで勉強すれば可能性はある。

(5) 自らプログラムを書くAIが登場し人間を凌ぐのでは?
シンギュラリティ(数学用語で特異点、AIが2045年に人間を超えると言われている時点)のグラフは技術の進歩をどのように数値化したか怪しい。AIが自らプログラムを書くための「意思」や「欲」をどのように組み込むか、そうしたAIを開発することにどれほどの意味があるのか分からない。そうした動きが脅威となれば世界中が放置しないだろう。無いとは言い切れないが遥か未来の話だと思う。

(報告:山田朝一郎)