例会・イベント

大阪支部新春講演会報告

老舗に学ぶ大阪経済のこれから

「シティプラザ大阪」に於ける大阪支部新年例会の前、午前10時30分より老舗ジャーナリスト前川洋一郎氏をお迎えし講演会が開催されました。当日は早朝にもかかわらず60数名の会員の皆様にお集まりいただき、熱心に聴講いただきました。

(講演要旨)

1.老舗とは

新聞社とかは50年でも老舗とか、どこぞの店は30年でも「たこ焼き」の老舗と言っているが学会の共通概念としては「100年以上」「3代以上」それから「地元での評判が良い事」が老舗の条件です。この三つの条件で調べると全国で10万社ぐらいある。私が都道府県のサンプル調査をした結果、100社の内100年以上の会社が2.2パーセント位あり、全国500万社として10万はあると私は思います。本当に沢山あります。老舗は自分から老舗とは言いません。税務署が怖いから(笑)。

老舗はどうしてできるのか…マクロ要因として「政治・経済・社会・環境」に加えて、「地域インフラ」「マネジメント」「人材と従業員」この四つの要因が良いからずっと続く。途中で自然災害に遭うとか、マネジメントに失敗するとかマイナスも起こるがそのうちにあらたにプラス要因も出てきてうまく切り抜け事業を続け、プラス・マイナスを何度も繰り返しながら生き残って老舗になる。会社を魚のかたちで表せば、現在の経営を頭にして、背中の部分は外的環境要因としてのマクロ要因と地域要員、腹側は内的組織要因としてマネジメントとヒューマン要員があり、しっぽが会社の創業である。背骨が一番大事、ここがいわゆるDNAで家系・家訓・秘伝・暖簾・歴代トップと続いて、その結果として今の経営がある。魚は頭から腐ると言いますが会社も頭から腐る。現在の経営者は苦労していますね。ところが老舗は背骨がしっかりしているので、創業から現在の経営までずーっと続いて崩れないのです。

老舗が老舗として生き残るには…五つの原則があります。「イノベーション/ジャンプ、跳んでみせる」「小は小で群れを成せ」「潔い撤退・転進」「常に襷(たすき・承継)を忘れない」「大きさを望まない、お客様が決めること」これが日本型経営であり、日本に長寿企業が多い要因です。

2.地域(文化)と老舗の関連は?

長寿企業の数は東京・大阪など大都市に多いのは当たり前です。企業の何パーセントが老舗かという出現率で見るべきです。出現率で見ると山形・京都・島根・新潟・福井と日本海側の県が上位を占める。大阪は38番、東京は43番、沖縄は最下位です。朝日新聞の出している民力(歴史・経済・生活などの総合的指数)の順位と老舗出現率の順位を足した数字で並べて見ると、福井・島根・富山・山形・長野・鳥取・山梨・石川と地方が上位を占める。大阪は42番目です。老舗と民力は比例していると私は思いますので足した数の少ない方が、幸せで楽しくて老舗も多い県と言えるでしょう。

大阪はなぜ老舗が目立たなくなったか?
大阪は明治以降の老舗が多いが、戦後は東高西低で大企業が東京へ行ってしまうから、法人数が減少し会社相手に仕事をする老舗は育たなくなっている。大阪市内は工場立地規制で工場は全部出て行きなさい、ということで工場がなくなったし、大学も全部出て行った。それに伴い大阪のお金持ちが出て行き、老舗も店を閉めざるを得なかったのです。

一方、最近“北陸モデル”という言葉がありますが「福井モデル(福井大学はなぜ就職に強いのか)」とか、「富山は日本のスウェーデン(なぜこんなに住みやすいのか)」という本に書いてあることは殆ど正しいと思います。実際行ってみると本当にいい街で、きれい。老舗も元気、ベンチャー企業がドンドン出て、若者もお年寄りも男女を問わず皆イキイキと働いている。最大の特徴は、同居世帯・2世代・3世代住宅が多い事。共働きの奥さんはパートでなく正社員で働いている。ここのメカニズムは他所にないところです。教育も熱心、自治体も熱心です。

街づくりの課題...大都会モデルよりも大阪は北陸モデルを推進すべきです。これが地域創生の基本だと思います。所得は高くないが生活がしやすい。物価が安い。地域密着の親戚が沢山いる。秀抜なベンチャーがドンドン出てきて開業率が高い。北陸3県は本当にいい街です。そこで次のような仮説を立ててみました。老舗の元気な街は幸せ豊か→幸せ豊かな街は文化がいっぱい→老舗と文化は相関する。 という訳で老舗をもっと大事にしてほしい。もちろんベンチャーも大事にしないといけません。

3.関西・大阪の経済 現状・課題

近畿二府四県の経済規模はオランダ並、大阪市はギリシャ並で大したものです。胸を張って大阪を大事にしないといけません。関西のGDPの成長率は2015、16年は下降、2017年は大きく伸びたが2018、19年は下落が予想されている。だから松井知事や関経連は万博招致に必死になったのです。それでも伸びてはいる。その理由は輸出とインバウンド二つで稼いでいるからです。低迷する内需をこれでカバーしている。

大阪の問題は廃業率が高いことであろう。大阪は開業率が7.1に対して、廃業率が7.6となっており、廃業率の方がずっと高い。東京・神奈川・愛知は開業率の方が高いのです。全国でも開業率6.5に対して廃業率6.6と拮抗している。その理由は中小企業の事業後継者がいないことと、大阪では商売が苦しいから東京へ行ってしまう傾向が強いということもある。大阪はサービス業での伸びはあるが、肝心の本来重要というべき製造業が低下して、結果として以前は日本経済の10パーセントと言われていたものが今は7パーセントに落ち込んでいる。製造業などが兵庫県や他の府県に持っていかれてしまったことの影響も大きいでしょう。また働き手の年齢をみると30代以下が減少し70代以上が増えており、少子高令化の典型的な大都会型になっている。もう一つは女性の就業率が低いことであろう。この女性の就業率の低い理由が分かっていない。家事・育児に時間を取られるというのはその答えにならないし、大阪の女性は働く意欲がないともいえないだろうし…この問題が未回答のままです。しかし一方で前向きに物事をとらえてゆけば、開業率の伸びている不動産・広告・レンタル・情報サービス・ビジネス支援サービスの会社がドンドン増えている。缶コーヒー、食事、ホテル、エンタメ・インバウンドが増えているこれらが大阪のねらい目です。製造業は東大阪とか兵庫県に任せておけばよい。本当に大事なのは消費単価を上げることです。泊まるのも安いホテル、食べるのも一番安いものばかり食べている。安いタコ焼き、安い吉本の喜劇、そんな柄の悪いものばかり宣伝するから安物になる。もっと高価で良いものをPRすべきです。大阪の新聞、メディアもそうだが、府も市も“安い安い”と“安い”を売り物にしない方が良い。消費単価を上げないといけません。

関経連・同友会・大阪市の描く未来年表はバラ色の関西です。サミット/ラグビー/オリンピック/ 北陸新幹線/万博/リニア新幹線と非常に素晴らしいが例によってハコモノです。後の、メンテナンス、これを生かしてゆくのにいくらのお金が掛かるのか、投資したらそれを償却しうまく運営して利息に見合う収益が上がるようなハコモノ・インフラを作らねばならない。この点を考えなかったのが大阪の海側のインテックスやWTC、ATC、島三つ(咲洲、舞洲、夢洲)です。バラ色の未来に踊らされては駄目です。

リクルートの出している「住みやすい街」では千里中央、西宮北口辺り一帯が出てきますが、正しいと思います。ダイヤモンド誌の「魅力ある街」では大阪は41位から28位、去年は21位と上がってきている。英国のエコノミスト誌では「住みやすい街」で大阪は世界第3位、1位はウィーン、2位はメルボルン。データの取り方がソフト面・ハード面・インフラ・犯罪発生率・教育投資・産業と色んな取り方がありますが、ホンマかいなと思います。でもランクが上がってくるのはいいことです。橋下改革の成果が上がってきているのだと言えます。皆さん頑張ってください。

イベントは一過性のもので、その時だけです。イベントをやるよりも産業を産み、育て、大きくして東京へ出してやるぐらいの気持ちでやるべきです。そのために重要なのが人づくりです。成長産業の観光集客・健康医療・環境エネルギー・クリエイティブデザイン・ビジネスサービスに重点を置いてベンチャーを組むことです。船場一帯の空き店舗を店貸ししてでも、ベンチャーを養成してもらいたいものです。

大阪は交通の便で魅力があります。梅田と難波には関西の大学や、名古屋・東京の大学がサテライトキャンパスを出しています。社会人大学院もある。これはすごい財産です。ここで新しい人づくりをすること。付加価値を生み出す人間、テクノクラートを養成することが大切です。大阪は戦後、専門学校、商業高校、工業高校をものすごく育成した。松下、クボタなどのメーカーも社内学校でしっかり教育した。これは江戸時代からの船場の丁稚制度に由来しているのです。

4.老舗学から見て大阪の進むべき方向は?

大阪府・市がこれから発展してゆく方策を、老舗が生き残る五つの原則から考察してみます。

  • (1) 大阪の「イノベーション」は万博。万博をチャンスとして西日本、アジアを取り込んで三つの島を生かし、負の遺産を生まれ変わらせる。
  • (2) 関西広域連合は仲良くして、小さな群れを作る。
  • (3) リニア新幹線からは潔く撤退する。東京へ1時間にする必要はない。既存インフラをメンテ更新し三空港の一体運営。
  • (4) デジタル時代の人づくりで先行する。そのために商業高校・工業高校はデジタル学校・インターネット学校に全部生まれ変わらせる。外国人学校も生かしてやればインバウンドのお客さんのおもてなしが良くなり10年先には利益として返ってくる。
  • (5) 大きさを望まない。都構想は止めにして、大阪府は解体し大阪市のみ残せばよい。

 

都市は、都市活(元気)・都市格(文化と品格)・都市力(政治経済)の三つがバランス良くなければならない。都市活とは魅力ある住みよい街であること、都市格は温故知新で老舗を大事にし、ベンチャーを育てること、都市力は政治力経済力を発揮し、万国博とIRで過去の負の遺産を清算することです。北陸モデルはこの三つが出来ている。大阪も北陸モデルを狙い目にするのが良いと思います。

最後に御社の大先輩、岩井雄二郎氏の著書「大阪商人の哲学」では以下のことを書いておられます。

  • ・大阪商人は信用・暖簾を守る。正しいと信じることを主張する。
  • ・大阪商人は「儲かりまっか」などとは言わない。実質本位「もったいない」の生活態度、「始末」の経済観念を貫く。政府や他人の厄介にはならない。
  • ・大阪は自由市民。どこもかしこも銀座ではいけない。大阪は船場で良い。

この本に書いてあることをもう一度大阪の政治家、財界人が勉強すれば非常にいい話になるのではないかと思います。

(前川洋一郎氏のプロフィール)
老舗ジャーナリスト。1944年大阪船場に生まれ、神戸大学経営学部卒業。松下電器産業(現パナソニック)に入社、経営企画室長、eネット事業本部長、取締役財界担当役員を歴任し2005年退社。 関西外国語大学、大阪商業大学大学院にて教鞭をとる。主な著書「カラオケ進化論」(編著)「老舗学の 教科書」(共編著)「なぜあの会社は100年も繁盛しているか」(単著)。

(報告:服部健樹) 

下のURLから会場のスナップ写真がご覧いただけます。(合い言葉は、shayukai) http://30d.jp/sunrock2000/8