会員の活動

寄稿・便り

シリコンバレーからデジタルヘルス革命?

道高幸彦(70038)

先般朝起きると、右肩が痛みで上がらない。この歳で四十肩か?と、妙に半分明るい気持ちで、スマホの専用アプリで主治医に予約入れると、翌日には、ビデオ診断が実現。その場で関節炎と診断され、専門のセラピストに回された。その翌日、専門のセラピストのビデオ診断を詳細に受け、30分後には、私用のプログラムが、動画付きでスマホの専門アプリに届いた。

筆者が利用しているカイザーパーマネンテは、全米9州に1200万人の会員を持つ医療保険と病院を兼ね備えた医療サービス機関で、700を超える診察拠点がある。20年ほど前は、親会社の保険会社が厳しくコストを管理する、どちらかというと、最低水準の医療サービスを提供する、低所得者層用の病院のイメージだった。ところが、この数年とても評判がよく、保険料も安いので、思い切って、カイザーに変えてみた。特に、自宅やアップル本社に近い、カイザーシリコンバレーのサンタクララ病院は、建物や設備も新しく、場所柄、最新のITサービスを提供してくれる。

まず、コミュニケーションは総て電子メール。カイザーでは、会員専用のウェブサイトから医師や病院とメールでやり取りできる。例えば血液検査をした際は、即日または翌日には結果がメールで届く。結果に関する医師の所見もメールで送られてくる。継続して飲んでいる薬もウェブから注文できる。医師が問題ないと判断した薬はクレジットカードで決済して家に直接届く。カイザーでは会計作業がない。診察が終わったらそのまま帰る。保険がカバーしない分の請求が後日届き、ウェブサイトからクレジットカードで支払えるのだ。米国最大級の病院グループ企業である「Kaiser Permanente(カイザーパーマネンテ)」は、保険会社でありながら、独自の病院などの医療施設を所有して運営している。 従って、いかに入院しないように予防医療のレベルを高めるか、入院しても早期に退院させることはできないかなど、さまざまな工夫がなされている。

米国には、日本のような医療皆保険がない。(目安だが10年納税した上で、65歳になるとMedicare なる、連邦政府提供の最小限の医療保険はあるが。)従い、治療に対する点数もバラバラ。それゆえ診療代は、同じ治療でも病院、医師、地域によって大きく異なる。米国では、現実に数千万人が医療保険なしで生活していて、よほどの大病をしないと医者には行けない。治療金額の上限規制は基本的にないので恐ろしい。風邪や腹痛では医者には先ず行かない。でも痛みに弱い米国人。結果、日本では処方箋が必要な強い薬を求めて、病人はドラッグストアに直行する。我慢が美徳ではないので、多くの人が、痛みを抑えるために鎮痛剤を多用して中毒となる。一方、若者はこの鎮痛剤を集めて、安酒に混ぜてドラッグパーティーまでやる。麻薬ドラッグは高いが、鎮痛剤は安い。それにすぐ酩酊状態になるからだ。親の寝室の棚に行けば、まず数種類の鎮痛剤は手に入る。

保険なしで大きな手術でも受けると、まず個人破産は覚悟しなければならない。請求は軽く億円を超える。コロナ破産も現実に沢山発生している。米国の個人破産の半数は医療破産と言われている。給料が安くても、会社の医療保険に加入させてもらうために、就職する人は多い。自己破産防衛策なのだ。

話を戻そう。医療皆保険がなく、規制もないので、逆に新しい効率化の利用サービスは、すぐに実施できる。特に、医療コストや効率に敏感な保険会社系の医療機関は、常に生産性を上げる手段を考えているので、すぐに新サービスを独自の判断で実行に移す。コロナ渦の今、患者と医療者両者に対面治療に対する躊躇があるので、ビデオなどのデジタルヘルスサービスへの移行は、抵抗が少ない。結果、一挙にデジタル化が加速しているようだ。そのうち、24時間対応のロボット内科医サービスぐらいは、すぐ出てくるであろう。

医療保険完備の日本。住民全員が保険証を持っているのは、当地では夢のようで、慢性の病人にとっては、日本は医療天国に見える。保険料が1割2割負担でも、何とか医療保険が欲しいと思う米国住民は、山ほど存在する。個人でも医療保険は買えるが、月払い保険料が一人軽く十万円を超える。しかも既往症があると保険会社は売ってくれない。日本が米国と同様のデジタルサービス対応をするのは、法律の改正なども必要で、一筋縄ではいかないかもしれないが、医師不足対策としても、医療機関のデジタル化は積極的に進めるべきだと思う。国民皆保険があり、その実行をしっかり管轄する規制官庁がある日本。それはそれで素晴らしい医療体制なのだが、その為の国の規制が、この世界の医療デジタル化を、日本では結果的に遅らせているのでは?と、実は心配しながら、感じている。